「つぎの快適をつくろう。」これは、新しい時代への思いを込めた当社のブランド・スローガン。今回は、蒸気機関車×石油ストーブ、新幹線×衣類乾燥除湿機。JR東日本とコロナという異業種コラボがテーマです。リアリティを追求し、鉄道ファンをうならせた開発の全貌をご紹介します。
こだわりを貫いて石油ストーブと除湿機で鉄道の世界観を表す
思い切ってJR東日本に打診すると、「おもちゃや雑貨では実績があるが、家電とのコラボは初めて」と好反応で受け入れられた。とはいえ、コロナストアを担当する長井に鉄道の知識はない。そこで、社内の鉄道ファンに声を掛けて話し合いの機会を持ち、アイデアを出してもらおうと考えた。その名も『鉄道ファンミーティング』。メンバーはコロナ社内で募集し、様々な部門から5名が集まった。
メンバーの一人の谷地田は「一鉄道ファンとして素直な意見を存分に言わせてもらいました。好きなことが仕事に反映されるなんて、そんなチャンスはなかなかありませんから」とにっこり。前例のない商品開発が始まった。
鉄道ファンの熱量が企画を動かす
鉄道ファンミーティングは毎回、熱く盛り上がった。「蒸気機関車といえば鉄の固まり。デザインのイメージは黒地×真鍮(しんちゅう)の黄色が良い」「パーツの材料は真鍮だね」「ストーブの煤煙(ばいえん)室のハンドルは、デザイン性はもちろん「蒸気機関車とのコラボなのだから、ひと目でS Lだとわかるモチーフが必要」「ナンバープレートを付けよう」「ヘッドマークも!」と要望は続々。
「5人のメンバーの熱量に素直にびっくりしました。同時に、この提案の実現は一筋縄ではいかないだろうとも感じていました」と長井が言うと、「それはみんな分かっていた」と谷地田が応える。「私も製品開発に携わる者として難しいということは分かっていました。それでも、鉄道ファンの代表として無理を承知でも言うことも私たちの役割かなと思っていたので」。こうして鉄道ファンの熱い思いは設計担当にリレーされた。
真鍮のハンドルにこだわりが凝縮
「全て『?』からのスタートでした。ストーブを、機能や安全性とは別の観点で設計するなんて、考えたことも行ったこともなかったので」と設計を担当した齋藤は振り返る。今回は既存のS Lストーブをベースとした製品設計、新たな追加部品の設計を担った。
SLストーブ。1962(昭和37)年に初代が誕生して以降、60年以上続く代表的な製品。
ストーブは燃焼機器であるため、耐熱性と強度の点から多くを金属部品で構成されているが、依頼された「煙室扉ハンドルのパーツ」はデザイン性が高くて緻密。「樹脂ならできるが金属では難しい、と加工業者に言われてしまいました。樹脂では耐熱性がN G。アルミダイキャストはパーツが小さすぎて不可能。耐熱性の高いスーパーエンジニアリングプラスチックという素材も検討しましたが、コスト面で折り合わずに断念。検討に検討を重ね、製造現場とも話し合い、真鍮の鍛造(たんぞう)成形でいこうと決めました」。
しかし、真鍮の鍛造では小さくて複雑な形状を具現化した実績がないため、加工では試行錯誤が続いた。「細いパーツを組み合わせた大きなハンドルを求める企画側と、太く短いパーツで小さなハンドルを作ろうという加工側に挟まれ、大変でした」。ようやく形ができると、あえて表面は磨かずにリアルな素材感を追求し、こだわりを貫いた。
ストーブの点火窓には煙室扉ハンドルを模した真鍮製のパーツを搭載。
設計者のひらめきが窮地を救う
齋藤への難題は続く。「『蒸気機関車のヘッドマークを燃焼調節つまみに付けたい。但し、つまみを回してもマークは動かないようにして。または、自分で向きを直せるものでもいい』と言われた時は、冗談だろう?と思いました」。
ストーブの燃焼調節つまみ。これを回転することで芯を上下させ消火と燃焼をコントロールする。
SLばんえつ物語モデルではこのつまみに蒸気機関車のヘッドマークを付けた。
回転軸とカバーを切り離す? いや、カバーを二重にする?考えあぐねていたある日、ホワイトボードのマグネットを手にした齋藤はひらめいた。「磁石でマークをつまみに付ければ、自由に向きを変えられる!」。これで局面が一気に動いた。
まもなくハンドル、つまみ、蒸気機関車の顔であるナンバープレートが完成し、ストーブ本体に組み付ける日がやってきた。「3点を組み付けたら、ストーブは一気に蒸気機関車になりました」。鉄道ファンの谷地田も「予想以上」と完成度に驚いた。続いて、このストーブ専用の収納バッグと外箱、取扱説明書までデザインにこだわり抜いて作り、ポータブルストーブ「S Lばんえつ物語」モデル、S L-C57180は完成した。
完成したSLばんえつ物語モデル。型式は蒸気機関車の車両番号にちなんでSL-C57180と名付けられた。
発売前、鉄道イベントにこのストーブを展示した。「こだわりは詰め込みましたが、一般の鉄道ファンに受け入れてもらえるのかという不安もありました」というメンバーの心配をよそに、反響は上々。「SLだ!」と指差す子ども、ストーブを見ながら蒸気機関車の思い出を話すお年寄りなど、多くの人がこのストーブを蒸気機関車(SL)として認識し「これ、いいね」と
長井らに声を掛けてきてくれたのだ。
「経験のないことばかりで設計は本当に大変でした。でも、社内でも社外でも大勢に認めてもらえてよかった。それに、遊び心を形にするのはエンジニアとして楽しかったです」と齋藤は振り返る。