塩原:当時は「働きがい」向上に向けて様々な施策を検討していましたが、フレックスタイム制度など勤怠の制度も並行して検討しつつ、スピード感を重視し、できるところから手をつけることにしました。
役員との議論を深めるなかで、社員の「働きがいを上げる」、「活躍してもらう」ことは賛成でも、服装選択自由化とどう繋がるのかピンとこないという反応もありました。
長井:「服装選択自由化」については役割固定の解消が一つの大きな目的で、もう一つは「働きやすさ」も重要な視点でした。例えば、子どもの送迎や買い物にそのまま行けるなど、私生活との両立面でもメリットがあります。また、暑さ・寒さに服装で対応できるようになり、職場環境の改善にもつながります。
従業員と役員双方の認識差を分析したところ、やはり男女間の認識のズレや、役割固定解消の必要性が改めて明確になりました。女性だけでなく男性からも、制服によって役割が縛られているという意見が出てきたのです。
さらに深掘りするため、全従業員に服装選択自由化についてのアンケートをとりました。
「制服を廃止してほしい」「制服の着用を個人で選べるようにしてほしい」など制服着用義務の廃止を希望する意見が約7割に達しました。「女性だけスカートを着るのはおかしい」「どの年代も同じ服を着ることへの違和感がある」など、性別や年齢、個人の事情をもっと考慮してほしいという意見もありました。
一方で、「現状通り制服着用が良い」という意見も約3割あり、「統一感や平等が損なわれるのでは」「社外の人との区別が難しくなりそうでセキュリティ面が心配」など慎重な声も寄せられました。
塩原:この結果を経営層に示したところ、従業員との認識の相違に驚いていましたが、結果として「トライアル(試行)」を行うことになりました。当社としては珍しい手法でしたが、「やってみないと分からない」と、スピード感を重視しました。
仕事にふさわしくない服装の人はいないか、社外の人との識別の問題など、事前にガイドラインを決め、ほぼ本番さながらでトライアルを実施したので、想像より心配は少なかったです。
——制服の着用が義務付けられている方たちへの説明や、不公平感などへの対応はどうされましたか?
長井:想定通り、「制服を着る人」と「着ない人」がいることへの公平性を問う声はありました。
業務の特性上、安全を担保するために制服の着用が必要な仕事もあります。しかし、働きやすさへの配慮は全員に必要です。そこで、暑熱対策として制服に「ポロシャツ」を追加するなど、実情に合わせた改善も行われました。なにより、「なぜ服装選択の自由化を行うのか」という目的を丁寧に説明し続けることを重視しました。
これまでの慣習に一石を投じ、対話とトライアルを経て始まった「服装選択自由化」。導入にあたっては公平性の担保や目的の浸透などハードルもありましたが、制度が動き出すと現場には予想以上の変化が生まれ始めました。