長井:トライアルにあたっての説明会では、3つの目的―①ダイバーシティ推進、②ワークライフバランスの向上、③中期経営計画のスローガンである「変わる、そして挑む」に向けた行動喚起―を強調しました。
また、社員一人ひとりが、TPOに合わせて服装について自分で考え、選ぶという事を通じて、自身の働き方について見つめ直す機会になれば良いな、とも考えました。
<目的>
| 1.ダイバーシティ推進 |
性別や年齢に捉われない、一人ひとりの自由な発想と多様性を活かした活力ある企業風土を醸成する。 |
| 2.ワークライフバランスの向上 |
育児や介護など様々な背景を持つ従業員が、自身にとって効率の良い働き方ができるよう後押しする。 |
| 3. 「変わる、そして挑む」に向けた行動の喚起 |
服装の見直しにとどまらず、従来の慣習や形式を見直し、従業員一人ひとりの自律的な行動や働きを促す。 |
3ヶ月のトライアル終了後のアンケートで、服装選択自由化を継続したいか聞いたところ、「支持する」が約9割という結果となり、不安や反発がもっと多いかと思いましたが、想定以上に肯定的に受け入れてもらえました。
「個性や多様性を受け入れる空気ができた」、「今までどれだけ無意識に役割固定で縛られていたかに気づいた」といった意識変革に関する声に加え、「冷えが解消された」、「学校行事や通院にそのまま行けて効率が良くなった」「自信を持って仕事ができる」「年齢や体型に合った服を選べる」など、様々な効果が寄せられました。近年の施策の中でもかなり反応があったと感じます。
ただし、自由化の3つの目的は、トライアル段階で「達成された」「やや達成された」と答える人が約半数で、3割弱の人は「まだ中身が伴っていない」との意見でしたので、今後の課題ですね。
塩原:印象的だったのは、「今回の施策は会社にとってすごい一歩だった」と、ある女性社員から直接言われたこと。インナーブランディングの観点からも良い影響だった、というアンケート記述も見ました。
自分はもともと「いつも同じ」より「変化がある方が好き」なので、服装の自由化によって刺激が増え、明るく楽しい雰囲気が強くなったと感じています。
「スーツの方が仕事の気合が入る」という人もいますが、それも一つの選択です。
長井:全員が同じ制服を着ていたときよりも、個人個人をより意識するようになりました。
当たり前なんですが、服装が違うことで「この人には個性がある」「一人ひとり違う」と自然に思えるようになり、結果的に仕事上でもコミュニケーションやディスカッションがしやすくなったと体感しています。
服装選択自由化 実施後の職場の様子
——制度導入にあたり、特に工夫した点はありますか?
長井:「なぜやるのか」という目的を、誰に聞かれても答えられるようにはっきりしておくこと。そして、アンケート結果などをオープンにして、決定プロセスを透明にすることです。「自分たちが着る服について、知らないところで決まってほしくない」という社員の想いを汲み、議論やヒアリングを重ねて納得感を大切にしました。
実際のところ、試行期間中はルールが曖昧で運用しづらい部分もありました。例えば「スーツの下にTシャツはOKか」「ポロシャツもOKか」なども議論しましたが、今はビジネスカジュアルの範囲で運用しています。
正解がないテーマだからこそ、選択肢を増やして選びやすい環境を作り、状況に合わせてブラッシュアップしていく姿勢が必要です。
塩原:現場によっては、「作業着をタックインするかアウトするか」など細かなルールの違いに意見が分かれることもありますが、個々の自由も尊重しつつ、ある程度ルールは必要だと感じています。服装は個人の趣味やこだわりが表れるので、対応の幅広さを実感しました。
——社外の方からの反応はありましたか?
長井:「会社の雰囲気が変わった」「変化する姿勢が見える」と肯定的に捉えていただいています。来社された方からも、「変わったね」と反応がありました。
また、お客様と会う時はスーツを着用、内勤時はビジネスカジュアルなど、TPOに合わせた服装選びが自然とできるようになりました。内容や相手によって服装を調整するスタイルは、制服時代には難しかったことです。今は状況に合わせて働くことができています。
塩原:職場全体の雰囲気も、なんとなく明るくなったと感じますし、服装の自由が実現したことで、「場所や時間にも縛られない働き方」へのハードルも以前より下がったと思います。
——最後に、今後の課題や目指していきたい姿を教えてください。
長井:現場作業のある方など一律にできない難しさはあり、自由と平等をどう調和させていくかは引き続き重要なテーマです。
会社の成長や競争力を高めるためには、社員の力が不可欠です。全員が同じ考え方をしていては、新しい発想は生まれません。何より大切なのは、社員が「主体性」を発揮することです。
ただし、単に好きなことを言うのが主体性ではありません。個人の主体的な行動が、企業の成長につながるような良い循環を作りたい。「服装の自由化」は、一見すると会社の成長とは結びつきが薄く見えるかもしれませんが、「働き方を見つめ直すきっかけ」だと捉えています。自分で服装を選ぶという小さな決断が、自分の意見を持ち、それを会社の成長に繋げていく姿勢へと波及していくはずです。
塩原:現状、服装選択自由化に大きな課題はありませんが、今後は職種ごとに期待される服装や、さらなる多様性・働きがいの向上をどう実現していくかを探っていければと考えています。
働く場所の自由度も今後の課題です。服装を変えたことで場所や時間も、より自由で柔軟に選べる会社を目指したいと感じています。
変化や多様性があることで、会社の競争力が高まり、新しい発想や主体性を引き出せるはず。
服装の自由というきっかけを通じて、社員それぞれが主体的に考え、会社の成長と結びついていけば理想的ですね。
多くの議論と試行錯誤を経て実現した「服装選択自由化」。その背景にあったのは、ジェンダー平等の実現や業務効率化だけでなく、「社員の主体性を信じ、多様性を成長の源泉にする」という確固たる経営姿勢でした。