ストーブは燃焼機器であるため、耐熱性と強度の点から多くを金属部品で構成されているが、依頼された「煙室扉ハンドルのパーツ」はデザイン性が高くて緻密。「樹脂ならできるが金属では難しい、と加工業者に言われてしまいました。樹脂では耐熱性がN G。アルミダイキャストはパーツが小さすぎて不可能。耐熱性の高いスーパーエンジニアリングプラスチックという素材も検討しましたが、コスト面で折り合わずに断念。検討に検討を重ね、製造現場とも話し合い、真鍮の鍛造(たんぞう)成形でいこうと決めました」。
しかし、真鍮の鍛造では小さくて複雑な形状を具現化した実績がないため、加工では試行錯誤が続いた。「細いパーツを組み合わせた大きなハンドルを求める企画側と、太く短いパーツで小さなハンドルを作ろうという加工側に挟まれ、大変でした」。ようやく形ができると、あえて表面は磨かずにリアルな素材感を追求し、こだわりを貫いた。
ストーブの点火窓には煙室扉ハンドルを模した真鍮製のパーツを搭載。
設計者のひらめきが窮地を救う
齋藤への難題は続く。「『蒸気機関車のヘッドマークを燃焼調節つまみに付けたい。但し、つまみを回してもマークは動かないようにして。または、自分で向きを直せるものでもいい』と言われた時は、冗談だろう?と思いました」。
ストーブの燃焼調節つまみ。これを回転することで芯を上下させ消火と燃焼をコントロールする。
SLばんえつ物語モデルではこのつまみに蒸気機関車のヘッドマークを付けた。
回転軸とカバーを切り離す? いや、カバーを二重にする?考えあぐねていたある日、ホワイトボードのマグネットを手にした齋藤はひらめいた。「磁石でマークをつまみに付ければ、自由に向きを変えられる!」。これで局面が一気に動いた。
まもなくハンドル、つまみ、蒸気機関車の顔であるナンバープレートが完成し、ストーブ本体に組み付ける日がやってきた。「3点を組み付けたら、ストーブは一気に蒸気機関車になりました」。鉄道ファンの谷地田も「予想以上」と完成度に驚いた。続いて、このストーブ専用の収納バッグと外箱、取扱説明書までデザインにこだわり抜いて作り、ポータブルストーブ「S Lばんえつ物語」モデル、S L-C57180は完成した。
完成したSLばんえつ物語モデル。型式は蒸気機関車の車両番号にちなんでSL-C57180と名付けられた。
発売前、鉄道イベントにこのストーブを展示した。「こだわりは詰め込みましたが、一般の鉄道ファンに受け入れてもらえるのかという不安もありました」というメンバーの心配をよそに、反響は上々。「SLだ!」と指差す子ども、ストーブを見ながら蒸気機関車の思い出を話すお年寄りなど、多くの人がこのストーブを蒸気機関車(SL)として認識し「これ、いいね」と
長井らに声を掛けてきてくれたのだ。
「経験のないことばかりで設計は本当に大変でした。でも、社内でも社外でも大勢に認めてもらえてよかった。それに、遊び心を形にするのはエンジニアとして楽しかったです」と齋藤は振り返る。