テクニカルセンターの篠田は、金型設計のスペシャリストだ。製品の設計図をもとに、解析ソフトでシミュレーションを行い、加工条件や製造工程も考えて金型を設計する。これまでも加工難易度が高い部品の金型を多く手掛けてきた。その篠田が遠赤外線ドームの設計図を見てうなった。「平らな部分と、円筒形でも円錐形でもないドームが一体になった部品は、これまでに見たことのない複雑な形。それを1枚のステンレス材から成形するにはどうしたらいいか、いったい何工程必要なのか。そもそも成形できるのだろうかという疑問さえ浮かびました。」
難点はふたつ。一つはステンレス材を丸みのある形にプレスするときに生じがちな“しわ”や“割れ”をどう防ぐか、もう一つは他部品との溶接の出来を左右する平坦度の確保、つまり凹凸や反りをどれだけなくせるかということだ。
「割れについては、板金の解析シミュレーションを繰り返し、部品形状、金型形状、加工条件の最適化を図ることで、解決することができました。しかし、平坦度については苦労しました。ステンレス材特有のコシの強さと特殊な部品形状が相まって、狙う数値が出ないのです。最終的には、ミシミシと音を立てるほど部品を押し、プレスの力で平坦度を確保しました。不完全な部品を製造現場に渡せないじゃないですか。成形を担う工場の担当者と協力し、頑張りました。」
10種類の金型による10工程の加工を経て、設計通りに仕上げた遠赤外線ドームは、いよいよ製造現場へ。
部品到着の前に、「フィルネオ」の設計図が、組み立てを行う柏崎工場の齋藤に届いていた。齋藤は、設計部門が考えた形状、加工方法に合わせて必要な治工具や自動化を検討し、生産ラインを構築して量産までを担当する。
「従来機種から関わっており、モデルチェンジと聞いていたのでそのつもりでいました。が、設計図を見て驚きました。ガラス製の円筒が、ステンレス製のドーム形状になっていたんです。見た目や性能だけでなく、作り方が全く異なり、溶接工程が大幅に増えていたのです。これはもう『溶接の塊』だと心の中で叫んでしまいました。」
というのも、溶接は製造工程の中でも難しく、時間も手間もかかるからだ。曲線部や細かな部分では、今でもロボットより熟練の技術者が行う方が正確だといわれるほどデリケートな工程なのだ。ただし、大量生産においては、人が介在することでの品質のばらつき、製造のスピードダウン、またそれらに伴うコストアップも否めない。
「人とロボットの溶接スピードを計算し比較したところ、4人必要な作業が自動化すれば2.5人に減らせると分かりました。そこで、品質向上とコストダウンを実現するテアダウンの観点から、既存の溶接ロボットに新たなロボットを導入して組み合わせ、『フィルネオ』専用のラインを構築しました。」
そして、2020年8月、『フィルネオ』は北海道を皮切りに全国への出荷をスタート。「組立ラインの最終地点で第一号の製品が箱に収まったとき、安心感と達成感で泣きそうになりました」と齋藤は語る。
『フィルネオ』のFIRはFar Infrared Ray=「遠赤外線」を意味する。関わった全員が「本当にできるのだろうか」と一度は口にした、その『フィルネオ』の開発。ストーブ前面に効率よく熱を集めるためにステンレス製ドームでバーナーを覆う新しい方法を採用したことで、設計から金型設計、製造まで全ての過程で前例のない課題に挑み、モデルチェンジ事例としては稀な3年という長い時間を掛けた。
「特別だったのは、開発期間の長さだけでなく、部門内はもちろん、部門を越えたやり取りが圧倒的に多かったこと」と篠田が振り返る。「確かにそうですね。遠赤外線ドームの成形については、シミュレーションを繰り返し、篠田さんと打ち合わせを重ねに重ねて形状を決めましたね」と松本。赤佐も「面倒な内容でもこちらの話を親身に聞き取っていただいてありがたかったです」と言う。「それだけに、形状が決まって金型ができ、最初のトライで目指す遠赤外線ドームの形が作れた時の達成感は大きかった。難易度の高い開発には、多くの人の力が必要なんですよね。」松本はチームワークの重要性を改めて感じたと言う。
販売から約1年が経ったころ、「営業現場からお客さまの反応がいいと聞き、手ごたえを感じています」と松本。「温風とは違って、人そのものを暖める輻射式の暖房だから、身体の芯から暖まる実感を味わえると思います。」
「灯油を多く使用して高火力にすれば暖かくなるのは当たり前ですが、『フィルネオ』は違います。遠赤外線ドームから発せられる遠赤外線輻射で、低火力時でも暖かく感じられるように設計しました。従来モデルと比べてもらえれば、その差は歴然です」と、赤佐も自信をみせる。
「遠赤外線ドームをはじめ、たくさんの変更点・改善点が集まった『フィルネオ』ですから、お客さまには、暖かさはもちろん、より向上した性能やデザインなど全てを感じてほしいです」と、齋藤。「遠赤外線ドームは外から見ることはできませんが、生まれ変わったフィルネオで快適な冬を過ごしてもらいたいです」と、篠田。
エンジニアたちの3年間の挑戦、繰り返された試行錯誤が作り上げた遠赤外線暖房の新スタンダード『フィルネオ』には、彼らの思いも搭載されている。
※記事の内容は開発当時のものです。商品の改良や組織変更などにより最新の情報と異なる場合がありますので、ご了承ください。